小学生の頃は、ミイラとか幽霊とかUFOとか、とかく超常現象に興味があり、学校の図書館で其の類の本を読み漁っていました。昼間はどんな恐い話を読んでも「ゼンゼン恐くないタイ」でも夜になると本の内容を思い出し「とっても暗闇が恐いタイ」部屋の電気を付けたまま寝たこともありました。特に恐いのは「ポルターガイスト」です。姿を見せず、音で人を脅かす奴です。目の前に姿を現せば、棒切れ振り回して何とか撃退出来そうですが、「見えない」のは正体不明でとっても恐い。吉塚のお祖父ちゃん家は、古くて昼でも暗くて、中を開けたくない衣装箪笥や髪の長い日本人形とかが置いてある2階の開かずの間とか、死んだ曾おばあちゃんの仏間とか、いつ「超常現象」が起きてもオカシくない場所があったものです。
さて、そんな少年時代は遥か昔。今風の家は、昔と違って堅牢な作り。風が吹いても窓枠がガタピシすることなく、そんな音にビクビクすることもなく年月が過ぎて行きました。私のような不良中年の家での楽しみの一つに、「家族が寝静まった頃、寝床を這い出して、テレビを見ること」があります。別に昼間好きなものを見れない程支配力が弱っている訳ではありません。第1グソクの土曜日夕方6時から始まる「ガンダムダブルオー」を除けば、幸いにしてチャンネル権は家長エリヤにあります。昼間どんな番組を見ても誰も文句は言わないのですが、思春期を迎えた青年たちと見ると気まずい番組が存在することも確かです。特に洋物ドラマの俳優は「セ」で始まるきわどい台詞を連発します。じっくり続きを見たいけど隣のグソクたちが気になり、意に反してチャンネルを変えてしまうこともシバシバです。その点、夜は孤独と自由を楽しめます。部屋を暗くして音量さえ注意すれば、リモコンは使い放題。「クソタイクツ」と家人に超不評の「囲碁将棋チャンネル」から「プチアダルト」まで、日本のケーブルテレビも本当に発達したものです。(別料金番組は契約しておりませんので、念の為。)
ある夜、いつものように部屋を暗くしチャンネルサーフィンをしていると、ブキミな音が聞こえるではありませんか。(長野オリンピックに買った)テレビは今でも音が良いので「どうせテレビの音やろう。」と最初気にしていませんでしたが、チャンネルを変えても同じような音がするのです。堅いものを引きずるような「ガタ・・・ガタ・・・ガタ」と部屋のどこかで音がし、しばし沈黙。気のせいとテレビを見始めると、また「ガタ・・・ガタ・・・ガタ」私の真後ろで。間違いありません。「ゲゲッ!!誰かおる!」慌てて、スイッチに飛びつき部屋を明るくしました。でもソファーの後には、誰も居ません。「これが、あのポルターガイストか!」少年の頃読んだ幽霊の本を思い出しました。もうとても部屋を暗くは出来ないので、明かりを付けたまま、ビクビクしつつ、上の空でテレビを見てると、またあの音です。自分の真下だあ! しかもスリッパに何か当たったあ!
勇気を振り絞って(清水の舞台から飛び降りる気持ちで)恐る恐るソファーの下を覗くと・・・。
「カメ」が居ました。
体長20センチを超えるオオガメは何者・・・!
それは我が家のペット「銭太郎(ぜにたろう)」でした。
巨大化し水槽を脱出したカメは、飼い主と夜を楽しむべくやってきたのでした。
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オヤジの転勤から福岡に帰ってきたのが小学校6年生の時。友達の居ない新学期の春に私を慰めてくれたのが「太郎」でした。太郎は「秋田犬」を祖父さんか曾祖父さんに持つ雑種犬で、私が福山に行く時は小さかったのに、帰って着た時は、体長120センチ、体高60センチくらいまで大きくなっていました。形は大きくとも性格はいたって温厚。スピッツのように無駄に吼える事も、ダックスのように生意気に甘噛みすることもなく、とっても人懐っこい犬でした。
今なら有り得ないですが、太郎はほぼ放し飼いにされており、隣接する幼稚園の園庭で園児の遊び相手になったり、勝手に門を開けては夜遊びに行ったりと、近所でも人気の犬でした。自分がエサ係りになってから私と太郎の仲は急速に進展し、自分が出かける時はいつも自転車の後をお供してくれていました。
しかしながら犬の寿命は人間より短く、太郎は不運にも「フィラリア」に侵され、家族の懸命の介護も虚しく、私が高校2年生の時「帰らぬ犬」となったのでした。以来「シャチョウ、可愛いでしょ。」と自慢のミニチュアダックスを見せられても、「そうね。」と犬の背中を撫でながら『フン、太郎の方が可愛いワイ。』と心の中で思ってしまいます。
従って、「犬を飼う」なんてもってのほか。あの悲しい思いはもう、したくありません。グソクがどんなに頼んできても「ダメだ!」と冷たく答えていました。
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ある日のこと、何の気なしにグソク達の部屋へ足を踏み入れました。3段ベッドにオモチャが散乱した子供部屋のカオスの向こう側に、透明の四角い物体があることに気が付きました。そう、「水槽」です。「水槽?ということは・・・。」水槽に近づき中を覗くと、小さなカメが2匹ジッとしていました。いきり立った私は、居間でテレビゲームに集うグソグ集に、「なんや、あのカメは。誰が飼っていいっていったとや!」と怒鳴ると、第1グソクはと、コントローラーを放す風もなく「お父さん、今頃気が付いたと?もう一ヶ月前からおるよ。」と平然に言い返すではありませんか。「ナニッ、一ヶ月!」
そうです。カメが居ることに一ヶ月も気が付かなかったのです、私。
2匹の内片方は小さいうちに死んでしまいましたが、「銭太郎」はスクスクと無駄に成長しました。直径5センチ足らずだった甲羅は今では20センチにまでなりました。大きくなるたびに水槽を変え、今ではプラスチックの「衣装入れ」の中身を水槽の変わりにしています。案の定グソク達は世話を殆どしないので、家人がブツブツ文句を言いながら水槽の掃除をしています。「カメのエサ」なるモノを、銭太郎の目の前に差し出すと「ガメラ」のような口を開け、手からもエサを食べます。
しかし(案山子・孝)悲しいことに、どんなに世話をしても「可愛くない」のです。太郎の時のような愛着がマッタク湧かないのです。あの無表情な顔がダメなのでしょうか。爬虫類・変温動物特有のヌメッとした冷たい感触がダメなのでしょうか。銭太郎を水槽から出し、手に取ってみます。頭を撫でやろうとするのに、銭太郎は頭を甲羅の中に入れてしまいます。仕方が無いので、どのくらい甲羅の中に頭がめり込むのか知りたくなり、銭太郎の頭を中にギュッと押し込みます。「シャー!!!」おしっこです。見事におしっこ引っ掛けられました。皆さん、カメの頭を押し込む時は、甲羅の背中側を手前にしておきましょう。
「カメは万年」と言われています。このままだと、銭太郎は誰よりも長生きし「妖怪銭太郎」になってしまいます。飼い主の責任として、それは何としても防がなくてはいけません。銭太郎をマリノアの観覧車に連れて行き、空中散歩をさせようか。イヤイヤ、それでは私だけが祟られてしまいます。
そこで皆さんに嬉しいお知らせです。来春水ぬるむ頃、銭太郎を「七隈」の沼に連れて行き「放生会」をします。
一緒に「銭太郎」と別れを惜しみましょう。
合掌。