<木曜日>
「エリヤ、ちょっと手伝っちゃらん?」
従妹から2回目のコールがあり、電話を替わった叔父さんに頼まれた。
叔母さんが亡くなったと聞いたのは夜の7時半過ぎ。3日前お見舞いに行った時、具合が良かったとは言えないまでも少し早い気がする。残念。自分の父親のときにも経験したが、亡くなると直ちに病院の霊安室に運ばれ「お葬儀はどこでされますか?」と暗にせっつかれるので実際かなりバタバタする。こんな時病院に駆けつけても返って迷惑になると勝手に考え、以前から予定してあった飲み会に参加した。10時過ぎに従妹から1回目のコール。「にいちゃん、何かあったら頼んでいい?」可愛い従妹トコモの頼みに「もちろん、何かあったら電話して。」と答えた。2回目は12時前。飲み会を直ちに抜けると、タクシーで馬出の典礼会館に向かった。
自分が初めて仏式のお葬式に出席し、お線香のむせ返る臭いと「合掌、ライ・ハイ。」に戸惑ったように、世の多くの人は「キリスト教式」には慣れていないらしい。祖父が牧師だったので身内は殆どがクリスチャン。結婚式は元より葬式も当たり前のようにキリスト教式が当たり前だった。当然叔母もクリスチャンだったので仏式で葬式は出来ない。会館に一番に駆けつけた一回り下の従弟イブキもクリスチャンではあるが、『経験値が少ない』ということで私に『葬儀委員長』のお鉢が回った。
会館に到着すると叔父さん家族と一緒にパンチ頭の担当者が待っていた。名刺は「北島幸太郎」。
『幸太郎?ありえねー。』と思いながらも「サブちゃんに似てますね。」とギャグを飛ばしたが、パンチのサブちゃんはニコリともせず「恐れ入ります。」とキタ。寝ている叔母さんの前での初めての打合せで冗談を言う方も不謹慎ではあるが、最後の最後まで私の冗談に笑わなかったサブちゃんは流石プロであった。
キリスト教式といっても私は「プロテスタント」なので「カトリック」の事は分からないが、お葬式は「告別式」と言い、通夜は「前夜式」と言う。「式」なので式を司る人、すなわち「司式」が必要である。司式は牧師に頼むのだが、会館には「ご住職」はいても「牧師」は居ないので、自分で手配しなくてはいけない。今回は「祖父の教会」の後を継いだカトー牧師にお願いした。
<金曜日>
朝10時典礼会館に行く。
カトー牧師夫妻は既に来られていた。叔母の前でまず礼拝をして頂く。毎日曜日教会にも通っていない「えせクリスチャン」ではあるが、体に染み込んだ賛美歌は忘れないものだなあ、歌いながらふと変なことを思ってしまった。礼拝後、牧師先生を交えて日程を確認する。亡くなったのが夜なので、前夜式は土曜日の夜、告別式は日曜日の昼と決まった。参列者の数が読みにくいが、両方とも150名くらいと想定。サブちゃんからは「広い方」の会場を勧められた。費用がバリ高そうだが、普通の会場は100人も入りそうもないので仕方が無い。今日はこれ以上準備することが無いので、一旦会社に行く。
夜会館に行く。
サブちゃんが見積を持ってくる。まあこんなにいろんな項目を考えるものだと感心する。「100万以内でね。」とやさしくお願いしたにも関わらず200万近い見積を平気で私に見せる神経を、ウチの営業に見習わせたい。一つ一つ説明を聞きながら、内容をチェック。結局総額170万まで削ったがそれ以上は下がりそうも無い。キリスト教式は、仏式のように「寺院模型」を祭壇に置かない代わりに「花」で祭壇を作るので、花代がとってもかかる。そこで「会館に直接頼まれるお花を祭壇のお花代に充当する」ことを提案した。うまくいけば?お花代30万が節約できる。早速、会館に来ている叔父叔母従妹弟に営業し、10本分ゲット。あと20本。
<土曜日>
今日は「前夜式」。
昼間、お袋の幼稚園の「入園説明会」の司会を済ませ夕方5時会館に入る。所用で不在の2名以外、母方の従妹弟総勢8人が久しぶりに揃う。叔母さんの子供以外の従妹弟に担当を振り、準備に入る。こんな時「社会人現役」の身内はありがたい。子供の頃は、夏休みや冬休みなどの長期休暇はいつも祖父の家で一緒に遊んでいたので、いとこというより妹弟に近い感じがする。
サブちゃんと「献花」時の参列者の流れを確認する。キリスト教式では「お焼香」が無い代わりに、参列者がお花を一本ずつお棺の前のテーブルに置いて別れを偲ぶ。お花は主催者用意するので持って行く必要は無い。前夜式150本、告別式150本準備はしたが、お花の集まり具合から参列者は予想を超えそうだ。念のため告別式分も用意しておく。
開式30分前。
弔問客がどんどん集まり出した。サブちゃんが椅子を継ぎ足し始める。開式5分前、まだ受付には人が溢れている。おける限りの場所に椅子を置き、ようやく全員着席。「広め」の会場を選択して大正解だった。お花は会館に30本以上寄せられ、外部からの献花もあり叔母の写真は色取り取りの花に囲まれ華やいでいた。女性にはどんな時でも綺麗にさせてあげたい。
午後7時5分。
定刻に5分遅れで開式。司会は「私」。披露宴の司会は3回ほどさせて頂いたことがあるがお葬式は初めて。かなり緊張したが無事終了。反省点もあるので「明日」に生かすことにする。一息つく間もなく「お香典」の整理に入る。自分はキリスト教なので「お香典」とは書かず「御花料」と書くが、一般の人はあまり気にする必要は無いと思う。従妹弟を集合し、あいうえお順に分類し、計算金額と実際の金額を最終的に確認したのが3時間後。とっても疲れたが、これだけ集まると仕事が成功したような妙な充実感がある。
お香典を整理していて気が付いたことがあるのでここで披露。
@ お金を入れる内封筒を糊付けしない。
糊付けしない方が、整理する時お金をとっても出し易い。
ついでに、金額だけでなく故人(または家族)との関係を書いて頂くとより親切。
A 外封筒に直接、自分の名前を書く。
短冊に名前を書いて帯に挟むヤツだと、帯を外す時短冊が落ちてお名前が分からなくなる
恐れあり
B お金を入れ忘れない。
これには二パターンあって、内封筒は入っているがお金が入ってないパターンと、内封筒自体
が入っていないパターンがある。幸運にも後者は親戚の伯父さんだったので直ぐ連絡し翌日入
金して頂いた。親戚でないと「入ってませんぜ」とは申し上げられないので、確認してから帯を
巻きましょう。
C 二人以上でお香典を包む時は、
一人頭の金額が分かるよう包みましょう。例えば二人で一万なら一人5千円とか。また住所も
二人分書いていただけると後でそれぞれにお礼状が出せます。それからこれは私見ですが、
大人数でお香典を包む時の一人頭最低金額として2千円くらいは必要だと思います。10人で
1万を代表して持って来られて、1500円の「お返し」を10個袋に入れて持って行かれると、
あんまりお香典の意味が無いような気がします。特に会社の同僚のご両親が亡くなられた時は
気を付けられた方が良いでしょう。
<日曜日>
11時に会館に入る。
最近は、お葬式よりお通夜の方が参列者は多い。とは言え昨夜は300名余の参列者、250名を想定し準備に入る。譜面の付いた歌詞カードがあった方が歌いやすいので、式次第の他賛美歌の歌詞カードも準備する。キリスト教式の結婚式で式次第に歌詞しか書いてない場合があるが、賛美歌は繰り返しが多く譜面が有り音の上がり下がりが分かるだけでも、最後にはかなり歌えるようになるもの。参列者はほとんどクリスチャンでないので「どうせ歌えないだろう」とあきらめずに「歌ってもらえる努力」をした方がいいと思う。
「2回目」はやはり1回目より流れがスムーズ。「いとこチーム」の連携も板について来た。今日のポイントは「出棺」。「通夜」と違って告別式が終わったら遅滞無く「火葬場」に行かなくてはいけない。午後1時開式で、式後(日曜は)3時50分までに十キロ程離れた火葬場に入らなくてはいけない。できれば2時半遅くとも3時には出棺したい。遺族とのお別れの時間も十分に取ってあげたい。式自体が一時間で終わるととっても理想的。式が伸びる要素は三つ。「牧師の説教」と「弔辞」と「献花」である。献花は昨夜で時間が読めたのでOK。弔辞はお一人のみなので10分くらいか。念のため牧師先生に「説教のお時間はどの位を予定されていますか?」と聞いてみる。「そうですね〜。20分くらいですかね。」とのお答え。ヤバイのである。「20分くらい」は30分になる可能性がとっても大。自分も結婚式の話は「5分くらい」と決めているが、短く話したと思っても7分は掛かっている。自己申告の5割り増しが正味のところなのである。
告別式は定刻どおり午後1時開式。
参列者は200名を少し越えるくらい。想定内である。司会の私のカミカミも大分マシになった。「もう一回前夜式をやり直したい。」などと余計な妄想が広がる。案の定、牧師先生の説教は20分を経過しても終わらない。ドキドキしたくなかったら、牧師先生と前もって説教の時間を明確に決めておきましょう。25分経過、説教終了。神様のご配慮である。予定通り2時半出棺。火葬場に移動する。
この火葬場に来るのは、祖父母・叔父さん二人・親父に続いて6回目か。順当にいけば自分たちの親の世代を全員送ることになる。手伝いに来てくれた叔母さんたちには「葬式用の自分の写真と経歴書は今のうちに用意しとってよ。」とお願いした。自分の親の経歴は意外と知らないものである。写真も若い頃の写真を使っても全く差し支えないので、特に女性は若い内に「自信作」を取っておくことをお勧めします。
火葬の間に、またお香典の整理。公共の待合場所でお香典広げて「はい○○さん、5千円」というのも気が引けるが「いとこチーム」はここで解散になるので、そう対面を気にもしていられない。慣れと作業手順の簡素化により、小一時間で整理終了。お金とファイルを息子ヨシキに渡してチームは解散。叔父さんからそれぞれ金一封を頂く。もちろんお金なんかいらないが心使いが嬉しい。
呼び出しを受け「収骨室」へ行く。みんなでお骨を拾う。人間の行く先は小さな「骨壷」である。ウチには「集合住宅」があり、骨壷は後日そこに「納骨」される。身内が死ぬことは大変悲しく寂しい。でも祖父母兄弟姉妹と一緒の場所に行くと思えば少しは癒される。「仕事」が終わった開放感と疲れのせいか「意識」が叔母さんのお骨の回りを飛ぶ。叔母さんは母の兄弟の仲で一番若く隣の祖父の家に居たので、小さい頃は何かと「親が買って貰えないおもちゃ」を買ってくれ、少し大きくなると大流行した「ボーリング」に連れて行ってくれたりもした。叔母さんの部屋に入ると香水と化粧の香りが充満し、思春期の男子はとってもドキドキした。自分にとっては叔母さんと言うより「綺麗で優しいお姉さん」だった。
『葬儀委員長』は大変だったけど、これで少し恩返しが出来たかな、アサカちゃん。