15年ぶりに大学時代の仲間で集まった。
15年前に福岡で働き始めてから、ほとんど会う機会がなかったが、
広島に住んでいる、ムーチョとカワノが広島で飲み会を企画してくれた。
久しぶりに訪れる広島は、路面電車の運賃が変わっていることに時代の流れを感じたが、
稲荷橋を渡って街中へ向かう景色は、当時と変わっていなかった。
少しばかり早く着いた僕は、紙屋町で下車し、平和記念公園へと足を向けた。
原爆ドームの向かいにある広島市民球場からは、
交互に立ち上がる赤い観客の姿が目に浮かばんばかりの大歓声が聞こえてくる。
フラワーフェスティバルの準備が進んでいる平和大通りを歩きながら、集合場所を目指した。
「リョウ、久しぶり! あんまり変わっとらんね。」
ムーチョが僕を見つけて声を掛けてくれた。
全員が集まり、黄金色のグラスを傾けると、自然と大学時代の話題となった。
入学の時に宮島でやった「オリエンテーションキャンプ」のこと。
フェロー仲間で作ったオレンジ色の「Economic Powerジャンパー」のこと。
研究室の代わりに使っていた「三階荘(雀荘)」と、そこで起こった数々のドラマのこと。
「松浦」のお好み焼きの味と、その半端でない大きさのこと。
大学祭でタケと「ボヨヨンロック」を熱唱し、花火をうち上げたこと。
「ヤエノムテキ」が勝って一番人気のオグリが惨敗した天皇賞のこと。
「広島市民球場」のチケット切りのバイトが3,900円だったこと。
宮島口から「チチヤスゴルフ」まで歩いた、あの暑い夏のこと。
それぞれの「恋愛」のこと。
そして、
平和記念公園の桜の下で、僕と「ムーチョ」が一人の女性をめぐり、取っ組合いの喧嘩になったこと。
15年前となんら変わらぬ笑顔と雰囲気が、時間が過ぎるのを忘れさせた。
次第に酔っていく中、大学の跡地が、公園になっているということと、
大学周辺の町も変わったこと、仕事や家庭の苦労話が、少し心に引っかかった。
13人の男の宴は、尽きることもなく夜遅くまで続いた。
次の日、僕は、ホテルをチェックアウトすると、大学跡地まで歩くことにした。
福岡に帰る前に、自分の目で、そこがどうなっているか確かめたくなっていた。
水を2本調達し、二日酔いの重い体をひきずりながら大学跡地へ向かうと、正門と大学のシンボルだったフェニックスの樹と
建物の一部が残されているだけで、それは立派な公園となっていた。
周辺の建物や店も、当時の賑わいとは異なっており、もちろん「三階荘」や「松浦」もそこには無かった。
無くなった景色の中から、思い出を搾り出そうと公園に戻り歩いていると、
子供達が楽しそうに走っている姿が、当時の希望に満ち溢れていた自分を連想させた。
青い空を見上げると、なぜなのかは説明できない涙が、溢れてきた。
すれ違う親子連れが、不思議そうに僕の顔を眺めていた。
僕は、広島に別れを告げ、日常へ戻ることにした。
帰りの新幹線の中で、昨夜ホテルの前まで送ってくれたムーチョとの会話を思い出していた。
「ムーチョ、忙しくてなかなか会えんけど、お互い大変やなぁ。」
と、僕は、酔いが醒めるほど涼しい風を感じながら、ムーチョの肩を叩いた。
「15年も経てばそれぞれ、色々あるもんやね。俺も・・・。」
といいかけた、ムーチョは、僕の一歩前に出た。
「あ、リョウが、大学の時言っとった夢、覚えとるよ。」
「まだ今からでもできるやん。大学ん時から、何かやらかしそうやったもんなぁ。期待しよるよ。」
ムーチョは、忙しさのあまり自分さえも忘れかけていた夢を覚えてくれていた。
ホテルの入り口に着くと、二人は、握手を交わし、どちらからとも無く抱き合った。
しばらくの沈黙の後、お互いに何も言葉を発することなく、変わるものと変わらないものを理解しあった。
「リョウ!また、飲もうな。体には気をつけんさい。」
そういいながら、信号を渡る笑顔が、オリエンテーションキャンプの顔合せで、
カラムーチョ食べていた彼の笑顔と一緒だった。
僕は「ムーチョ」に感謝の念を込めて一礼した。